東京地方裁判所 昭和57年(行ウ)154号 判決
一 請求の原因1の事実(手続の経緯)については当事者間に争いがない。
二 右当事者間に争いのない事実によれば、本件決定書には、申立を棄却する理由として、「職権により調査したところ、昭和四四年特許願第七八五二三号(以下「本願」という。)に係る特許査定の謄本は、本願の復代理人である清水三郎を受送達者とし、昭和五三年八月八日に、東京中央郵便局書留引受番号一〇〇よ七四号をもつて発送され、同月九日に受送達者本人に送達されていることが認められた。」と原告の出願復代理人あてに発送した特許査定の謄本があて名人である同復代理人本人に送達された事実が職権調査の結果認定できた旨を述べ、原告(異議申立人)の請求の原因1(三)と同旨の主張に対して、「当該査定の謄本は受送達者本人に送達されていること前記認定のとおりであるから、特許法第一九〇条において準用する民事訴訟法第一七一条第一項の規定(補充送達)の適用はなく、異議申立人の主張は採用し得ない。」と、その主張に対応した判断を示し、次いで「本願については、特許法所定の期間内に同法所定の特許料が納付された事実は存在せず、特許料の納付の事実のないことは異議申立人も認めるところである。してみれば、本願につき、当庁が昭和五三年一二月一九日付けで行つた出願無効処分は適法かつ妥当なものである。」との説示がなされていることが認められる。
右事実によれば、本件決定に附記された理由は、原告が異議申立の理由としたところに対応しており、本件無効処分を正当として維持した判断の根拠が異議申立人である原告に理解し得る程度に具体的に記載されているものということができ、行政不服審査法第四一条、第四八条の規定の趣旨にもとるところはないというべきである。
したがつて、本件決定には理由附記不備の瑕疵はなく、その他本件決定を違法とする理由はない。
三 よつて、原告の本訴請求は理由がないのでこれを棄却することとする。
〔編註その一〕 本件における請求原因は左のとおりである。
1 手続の経緯
(一) 原告は、昭和四四年一〇月一日、自己を出願人として特許出願(出願番号 昭和四四年特許願第七八五二三号)をしたところ、審査官は、特許をすべきものと認めるとの特許査定をなし、被告は昭和五三年八月八日、特許査定謄本を原告の出願復代理人である弁理士清水三郎に発送した。
(二) 被告は、原告が特許査定謄本の送達後特許法所定の期間内に所定の特許料の納付をしなかつたことを理由に、昭和五三年一二月一九日付けで原告の右特許出願を無効とする処分をした。
(三) 原告は、右無効処分に対し、昭和五四年三月三一日付けで行政不服審査法による異議申立をし、右無効処分が取消されるべき理由として次のとおり主張した。
原告の出願復代理人は、特許査定謄本の送達を受けていない。右謄本は、同復代理人と同一家屋内に居住する同復代理人の義母が受領したと推測されるが、同人は右復代理人とは生計を異にしているので、特許法第一九〇条で準用する民事訴訟法第一七一条所定の同居者又はそれに準ずる者と解することはできず、また、同人が右復代理人から書類の受領権限を受けたこともない。したがつて、右特許査定謄本は原告の出願復代理人に有効に送達されていない。それにもかかわらず、送達手続が有効に完了したことを前提に法定期間内に特許料の納付がないとして、右特許出願を無効とした被告の処分は違法である。
(四) 被告は、昭和五七年七月二六日付けで右異議申立を棄却する旨の決定(以下本件決定という。)をし、本件決定は同月二七日原告代理人に送達された。
本件決定には別紙決定書の理由欄記載のとおりの理由が附記されている。
2 本件決定の違法性
本件決定における右理由附記は不備であつて違法性を有し、取消されるべきである。
行政不服審査法第四一条、第四八条の規定によれば、異議申立に対する決定には理由を附すべき旨が定められている。右規定の趣旨は、行政手続を慎重ならしめ、その内容の適正を担保しようとする要請によるものであるから、附すべき理由は画一的形式的なものに終ることなく、不服審査を求めた異議申立人の不服理由に対応して、結論に到達した過程を明らかにしなければならないというべきである。
しかるに、本件決定に附されている理由は、単に右特許査定謄本は前記復代理人本人に送達されたというのみであつて、前記特許出願無効処分における処分理由を形式的に繰り返えすに止まり、原告の異議申立事由に対応してその結論に到達した過程を何ら具体的に明らかにしていない。
このような理由の附記では、異議申立人の不服申立の利益はまつたく無視されたままであるというべきであり、したがつて、本件決定には理由附記不備の違法がある。
〔編註その二〕 本件における決定書理由は左のとおりである。
本件異議申立の趣旨及び理由は異議申立人復代理人弁護士加藤義明作成の異議申立書記載のとおりである。
以下考察する。
職権により調査したところ、昭和四四年特許願第七八五二三号(以下「本願」という。)に係る特許査定の謄本は、本願の復代理人である清水三郎を受送達者とし、昭和五三年八月八日に、東京中央郵便局書留引受番号一〇〇よ七四号をもつて発送され、同月九日に受送達者本人に送達されていることが認められた。
異議申立人は、当該特許査定の謄本は受送達者の義母江間孝枝(以下「同人」という。)が受領したものであり、同人は特許法第一九〇条において準用する民事訴訟法第一七一条第一項に規定する「同居者」に該当せず、したがつて、本願に係る特許査定の謄本の送達はなされていない旨主張する。
しかし、当該査定の謄本は受送達者本人に送達されていること前記認定のとおりであるから、特許法第一九〇条において準用する民事訴訟法第一七一条第一項の規定(補充送達)の適用はなく、異議申立人の主張は採用し得ない。
そして、本願については、特許法所定の期間内に同法所定の特許料が給付された事実は存在せず、特許料の納付の事実のないことは異議申立人も認めるところである。
してみれば、本願につき、当庁が昭和五三年一二月一九日付けで行つた出願無効処分は適法かつ妥当なものである。
よつて、本件異議申立てには認容すべき理由がない。